「なー、箒型銃使うより刀で斬った方がウチの国じゃ普通に速くない?」
「ぶっちゃけ過ぎだろ、確かにそうだが」

――パーラーメード、キノウツン藩国での反応

解説:パーラーメードとは

 日本語で書くと客間女中、来客の応対や給仕を行うメードである。
 仕事内容が屋敷内作業中心に従事する一般的なメードに華美な装飾や流行を追うような衣装は好まれていなかった。
 だが、パーラーメードは屋敷内の仕事よりも屋敷外からの来訪者の対応をする仕事が中心であったため、あくまで『外に向けた』デザインになっている。
 そのため、彼女達のメード服は普通のメード服ではなく、雇用主の趣味の影響が反映されたデザインや、美しさを重視した派手なものが多かったようだ。
 そしてその職業、衣装に合わせるようにパーラーメードの職には容姿が美しい者が付く事が多い。
 結果、雇う主人側、また訪れる来客側にもそんな見目麗しく華やかな彼女達に懸想する事が少なくなかったようで――この辺りの結果はこのアイドレスの派生を見れば納得できるものがあるだろう。
 美しい容姿を兼ね備え、デザイン重視の華やかなメード服を着たメード、メード職の中ではまさしく花形職業であろう事は想像に難くない。

HQ適用・HQ能力継承

 パーラーメイドHQ根拠 参照URL
 メイドエプロン:第二世代:器用+1
 メイドエプロンHQ根拠 参照URL


閑話:喫茶店の話

「……現金なもんだ、女がいると知れば売り上げがチィと上がる」

 キノウツン藩国内、とある喫茶店。
 一人の老いたイアイドが経営しているごく普通の『人斬り喫茶』である。
 そこには何故か一人のメードが働いていた。

 まるで帝國の宮廷辺りにでも居そうな格好のその女が来たのは少し前の話だった。
 『昔にキノウツンに存在したメイド喫茶を復興させるため、さらなる接客を勉強をしたいので、仕事を教えて欲しい』とやって来たのだ。
 老マスターは大笑いし、自分の生まれる前の大昔の話を現代にとは大層でけぇ話だ、とそのメードを雇う事に決めたのであった。
 ――もちろんその夢物語だけで決めた訳でもないのだが。

「えっ、売り上げ上がってるんですか?」
「今時女が給仕してくれる店は殆どないからな、嬢ちゃんがこの国に来た大昔ならともかく」
「……メードさんが居た大昔って時点で、すでにオーナーより私の方が年上な感じがするんですが」
「見かけは嬢ちゃんだろうに。中身もガキだしな」
 オーナーたる老人はあきれた様な面でキセルを口から離し、吸った煙をふうっと吹き上げた。

「しかしお前さん、子供はいいのか?」
 オーナーの突然の言葉に足を滑らせ、メードは顔面から派手にクラッシュした。
「……痛たた……えーと、それはどういう意味でしょう?」
「このご時世、ダメな男を掴まされた女が子供を養う以外では面晒して働くって事はねぇんだよ。……ま、第七世界人は変わりモンだらけだって言うからお前さんが例外なのは解ってるが」
「じゃぁ最初から聞かないで下さいよー……」
 オーナーは再び煙管を咥える。
「しかしいいのか?女の少ないこのキノウツン、お前さんが望めば幾らでも男が寄ってくるだろうに」
「……そんなもんですかねぇ、ぜんぜんそうとは思いませんが」
「そんなモンなんだよ。他所様の国にはお前さん達を悪い第七世界人とか何とか言うアホウもいるだろうが、うちの国の奴らは気に入ったらそんな事毛ほども気にしねぇだろうよ」
「いや、そうじゃなくて……」

 キノウツンの民は我侭である。立派な法整備があってもあまり言う事は聞かない方だ。
 だが、身内や友には優しく、女子供にはなおさら――と言う不文律。
 さまざまな事件で激しく様変わりしても、国民達の気質はさりげなくどころか思いっきりツンデレであった。
 名は体を現すとはまさにこの事かもしれない。

「……藩国外の男でも居るのか」
「それらしきは居ますが、相手が否定しますね」
「こんなわかりやすい奴相手で何もないならよっぽどの朴念仁か、うちの国じゃ考えられねぇ男だな」
「…………あー」
 ――実ははここが今の様になる前はこの国の住人だったですけどね、と心の中で付け加えつつ。
「それとも男色か?」
「いや、それはないです。多分、いや、絶対」
 ははは、とメードは笑ってその場をごまかす様にウエスを持ちカウンターから離れた。

 テーブルを拭きながらメードは二つの事に悩む。

 一つは女性が外に出ない国。
 家の中でただ大切に可愛がられてる国。
 すぐに変化する情勢を考えると、それは彼女達を守ることであり、愛情であり、優しさである。
 だがその状況が延々と続く中――本当にメード、いや女性が外で働く風習自体が復活するのだろうか?
 危機の起こりやすい状況が続き、彼らの判断が正しいと言える間は、きっと難しい話なのだろう。

 もう一つは想い人。
 そもそも相手の感情の事細かいところまでは知らない、いや悪く思ってないとは思うが――。
 何回もド直球投げても、何も反応されないと、流石に男女とか以前に人間として悲しいものがある。
 最終的には自分が好きでも相手がどうかなんてよくある話だ、と苦虫を潰したどころか油虫を素足で踏んだようなどうしようもない悲観的思考にならざるを得ない。

 ――ついでに言うなら。
 初めてあった時から酷く永い時が過ぎてしまった。
 相手がいきなり前皇帝の義理の息子、帝國の宮廷人になるなんて会った当初は思ってもいなかった。もっとも新皇帝が代替わりした今では、まだ貴族やってるかどうかすら解らないが。
 思えば色々あったもんだ、と振り返る。
 あの時は自分自身でも、一人の人間を想い続ける事はこれほど苦しく辛いとは思わなかっただろう。

 だが。

 世の中、愚痴を言ったところでどうにもならない事なんて幾らでもある。
 失敗を繰り返し、悩んだり落ち込んだりしてるのは自分だけではない。
 この国のメード復活にしても、想い人にしてもそうだ。
 たとえるなら先が見えない暗闇、いつか光が射すなんて嘯いて待つようなやってられない。
 どんな事があっても、壁を手で探り、足を一歩でも動かないと全ては何も変わらないのだ――。

「どうした?ボーっとして」
「……あ、すいません」
「まぁ、閉店までもうチョイだ、頑張ってくれや」

 直後、ドアに付いたベルがカランと音を鳴らす。
 客は大小を差した二人の男。キノウツンではごく普通の姿である。
 メードは深く一礼をして笑顔で彼らの前に出る。ちょっとおしゃれなメードエプロンがふわりと揺れた。
 意外な店員の姿に少し戸惑う彼らをよそに彼女は言葉を続ける。

「いらっしゃいませ。どちらの席になされますか?」

 きっと店を出た彼らの口からはこの店が話題が上がるだろう。
 『女、いや大昔の物語の存在だったメードがいた喫茶店があった』と。

 それはゆっくりと友人や家族やにゆっくりと伝わっていくはずだ。
 古い古いこの国の歴史そのままで生きている者をが居る事を。
 まだ、女性が日の下を歩き働いていた時代の事を、そしてそれを誇りとしていた歴史を。
 そしてその歴史を護り、その日が再び戻ってくる事を信じて存在し続ける者が居る事を――


製作スタッフ

文章
  沢邑勝海@キノウツン藩国
イラスト
  沢邑勝海@キノウツン藩国
  ぱんくす@羅幻藩国